prologo


 雨上がりの橋の袂。一人の少年の死体が上がった。周囲は一時騒然となり、石造りの橋は黒山の人集り。だが見下ろす人々の顔に浮かんでいた物は、恐怖でも、戦慄でも無かった。誰もが年若い少年の死体を前に、思わず熱い溜息を吐き出した。
「まあ、こんなところで。坊や、見てはダメよ」
 手を引く子供の瞼を覆った掌は、塵一つ見受けられない透き通る色であった。
「まだ若いじゃないか。可哀想になあ」
 腕を組む夫人にそう漏らした男の声音は、何処か空惚けて響くばかりであった。
「事件かな、事故かな、ねえでもあんなにいっぱい。誰かが手向けたのかしら」
 紳士の背後から覗き込んだ女の顔に滲んでいたのは、後ろ暗い歓喜であった。

 アンダルシアの抜け切った太虚の下。赤土に微かに芽生えた緑地をベッドに、少年は天を向いて永遠の眠りについていた。そしてその小さな身体は、数え切れぬ程の薔薇の花に埋め尽くされていた。
 まるで壁画に描かれたクピドのように、その少年は愛らしく、いじらしく、そして息を呑む程に、美しかった。乳白色の肌に浮かび上がる血塊さえも、まるで身体から薔薇が自生したかのように錯覚させる。
 相も変わらず途切れぬ群衆の熱い視線の中、少年は陽だまりの下で眠っているかのように、安らかに微笑んでいた。

 それはまるで、愛する者の腕の中に抱かれているかのようであった。